リウマチセンター

はじめに

リウマチなんかこわくない

市立御前崎総合病院 大橋弘幸

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はじめに

はじめまして、この文章を書いているのは、市立御前崎総合病院の大橋弘幸です。今回「リウマチなんかこわくない」との題名で講演をしますが、リウマチは今もってなかなか手強い相手です。負けないで、立ち向かいましょうとの思いを持ってお読みください。(リウマチ:関節リウマチとして使用)

私のリウマチとの遭遇

私は、1981年3月に浜松医科大学を卒業し、5月から内科の研修をはじめました。この頃、私は自己免疫という現象に興味を持ち、自分の専門は、「膠原病、自己免疫疾患」にしようと決めていました。ゆくゆくは膠原病を専門にしたいと考えていましたが、循環器疾患、消化器疾患、内分泌疾患、腎疾患、神経疾患など色々な病気に出会い、様々な患者さんを担当させてもらい、とても勉強になりました。この頃は、最初の5年間ぐらいは専門とする「膠原病」から離れて、広く病気や患者さんを診療し、何でもできる医者になりたいと考えていました。「膠原病」を診療するには、内科全体の事をしっかり身につけなければならないと信じていたからです。この時期に、はじめてリウマチ患者さんを診療させてもらいました。出会いは最悪でした。私の担当した患者さんは、30年にわたりリウマチに苦しめられ、四肢の関節は腫れて変形し、動かそうとすると痛みで震え、頸椎(くび)にもリウマチが入り込んでおり、常にカラ(首を守る装具)をしていました。カラを取ると手足に痺れが起こり大変つらい状態でした。この患者さんは、プレドニンを3錠(15mg/日)、消炎鎮痛剤を2種類、ビタミンD製剤、胃の薬、高血圧の薬、漢方薬、得体の知れない民間療法薬などを服用し、朝も昼も夜も痛い痛いとうなって何回もナースコールを押し続けていました。また、この患者さんは痛みのため心は晴れず、いつも医療に不満があり、愚痴をこぼし不機嫌でしたので、同室の他の患者さんもイライラしていました。私は毎日朝と夕に回診していましたが、この患者さんはとても苦手で病室に入ろうとすると足がすくんでしまいました。この患者さんは、その当時最先端の治療法であった血漿交換療法(悪い血漿をきれいな血漿に入れ替える治療法)を行うために入院したのでした。この血漿交換療法を行うためには、血管から血液を取り出し、血漿を交換して再度血管に返してあげなければなりませんが、私の担当した患者さんはプレドニンの影響でまるまると太り、脂肪が多くて血液を採る血管がみつからないため、苦労しました。患者さんもチクチクと何回も針を刺されるため、一所懸命に耐えていたのでしょうが、最終的には「やめて、やめて」と治療を拒否してしまいました。また、血漿交換療法は、この患者さんにはほとんど効果がありませんでした。この患者さんは、長期にプレドニンを使用しており、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症、肥満が出現したため、プレドニンを減量するために入院したのですが、うまく行きませんでした。この患者さんに出会った事で、痛みが長期に続く事がひとの性格や態度、気分をどんなに痛めつけ、ゆがめるかをはじめて知りました。痛みはやはり悪です。その後の4年間は、リウマチ患者さんの診療は避けて他の内科疾患を精力的に研修しました。私にとっては幸せな黄金の時代でした。

新しい治療の幕開け

1985年8月に浜松医科大学にもどって、新たに膠原病やリウマチを診療しはじめましたが、力を注いだのは全身性エリテマトーデス、強皮症、血管炎、皮膚筋炎など膠原病の診断・治療でした。プレドニンや免疫抑制剤の使い方や合併症の予防などなかなか一筋縄ではいかないため一生懸命診療しました。この時代には関節リウマチの治療は、患者も医師も良い治療がない事に耐えるばかりでした。1989年から1991年までカナダに留学したあと、再度浜松医科大学にもどりましたが、リウマチ患者さんを外来で診療するたびにいい薬がないと感じる事が多く、1992年より欧米では既に良く使用されていたメトトレキサート(MTX)を使用しはじめました。この薬剤は、今までの抗リウマチ薬(リウマチを特異的におさえる薬)とは異なり確かな手応えがありました。また、この1990年代には新しい抗リウマチ薬の治験(試しに新しい薬を使用して効果を評価し、新薬を開発する試験)をたくさん行う事になりました。この時代に治験に関わった薬でレフロノミド(アラバ)やタクロリムス(プログラフ)など効果のある抗リウマチ薬が続々と出てきました。特に印象深い治療薬は、インフリキシマブ(レミケード)です。この治療薬を全身の痛みのため歩行も困難であったあるリウマチ患者さんに使用したところ、点滴終了後に患者さんより「全く痛くなくなった。自転車をこいで遊びに行って来た」と報告してくれました。恐ろしく効果のある薬だと思いました。現在、私たちは、このような強力な効果のある生物学的製剤が4剤も使えるようになりました。患者さんの状態によって、この生物学的製剤が使用できるかどうか(適応基準)は異なりますが、まさに治療法の革命が起こったという感じです。未だにリウマチに関しては、片付かない問題が山積していますが、私たちは現在リウマチによる関節破壊を止める事ができる生物学的製剤を手にしている事は、大きな希望です。

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