リウマチの症状

関節リウマチは、すべての人種・民族にみられ、日本における頻度は約0.6%と言われています。従って、御前崎市で3.6万人の人口があるとすると約200人の患者さんがいらっしゃる事になります。発症しやすい年齢は、30~50才代で65才以上になると発症する割合が低下します。また、女性のほうが男性より約3倍発病しやすいと報告されています。リウマチの患者さんの話をよく聞いていると、子供を産んだ後少しして手・足がこわばり、関節の痛みが出てきて関節リウマチと診断された方が何人もいらっしゃる事に気付きます。丁度、子育てで大変な時期の女性に起こる厄介な関節の病という印象があります。

早期症状:関節リウマチの症状は、病気が進行してしまえば、誰がみても「リウマチ」だと言えるようになりますが、そのはじまりははっきりしません。初期症状としては、なんとなく体が重く、微熱(37℃台の熱)があったり、食欲がなかったり、貧血ぎみであったりします。さらに、境界のはっきりしない痛みやこわばりとともに知らないうちに発病していることが多く、次第に関節の腫れ、痛み、熱感といった関節炎の症状が出現してきます。また、数は多くありませんが、急にたくさんの関節が腫れて痛くなり発病するものもあります。

関節症状:関節リウマチの症状は、朝のこわばりと関節を動かす時の痛み、圧痛(押さえると痛い)、関節の腫れが主なものです。この際、注意すべきことは、関節炎(関節の腫れ)は、一ケ所のみでなく多くの関節を侵し、左右対称性に侵されることが多いことです(必ずしも同時期に左右の関節が腫れるわけではなく、右の関節の腫れと痛みが起こった後に左も腫れるというような具合で対称性に起こります)。侵された関節は、腫れて、熱があったり、水が溜まったりします。症状が進むと軟骨や骨を破壊し、関節が変形したり、骨と骨がくっついて動かなくなったりします(骨強直)。ある種の変形は、リウマチに特徴的で色々な名前がついており、すぐに診断に結びつきます。

関節外症状

関節リウマチは、関節が腫れて痛くなり、変形して体が動きづらくなるのが最も重大なことですが、実はそれだけではなく内臓にも色々な障害を起こすことがあります。病気の始まりには余り気にならなかった症状も、徐々に出現してくる事があります。ここでは、関節以外の症状(関節外症状)についてお話をします。

皮膚(関節の近くの結節、皮膚の色・つやの変化)

皮下結節:リウマチの患者さんの20〜25%にみられるグリグリとした結節で、関節の周り、肘、後頭部、おしりの骨の所によくみられます。硬さは、石のように硬いものから柔らかいものまであります。リウマチの症状の強い人に多く、治療でなくなることもあれば、なかなかよくならず残ってしまうこともあります。

皮膚のもろさ:おくすり、殊にステロイド(プレドニン)の影響や痛み止めのために皮膚が弱くなり、少しのことで出血したり、皮膚が紫色になったり、皮膚が薄くなったりします。しかし病気自体でも皮膚の変化はあり、皮膚の手入れは欠かせません。

紅斑(皮膚の赤み)、皮膚潰瘍(皮膚がはげ落ち、ほれている状態):爪の周囲や指先に赤みがあったり、足に潰瘍があったりした場合は、リウマチのなかでも重症のことがあり、充分な治療が必要な悪性関節リウマチであることが多いので、担当の先生によく相談する必要があります。

肺(息切れ、咳)

リウマチの患者さんは、よく風邪を引かれるので、咳や痰が出ることが多いと思いますが、このような症状が長く続く時には、胸のレントゲンや痰の検査をすることをおすすめします。なぜなら、間質性肺炎(肺が硬くなる病気)や胸膜炎(肋膜が腫れて厚くなったり、水が貯まったりする)あるいは気管支拡張症、慢性気管支炎の様な合併症が起っていることがあるからです。

間質性肺臓炎(空咳、息切れ):症状が全くなく、検査で初めてお医者さんに言われる場合と、空咳や息苦しさ(例えば坂道をのぼると以前に比べて息がよく切れるようになった様なとき)がある場合があります。この合併症は、通っている先生に話していただければ、胸のレントゲンでわかります。詳しくはCT検査やその他の特殊な検査で診断します。普通は、ゆっくり知らない間にでてきますし、進行が遅いのでリウマチの治療をしながら咳止めなどで様子をみます。ときどき急にこの病気が悪くなる方がありますが、ステロイド剤が効果があります。従って、急に息苦しさや咳がでてきたら通っている先生に申し出てください。

胸(肋)膜炎:これは、肋膜に腫れが起こり、胸に水が貯まったり、肋膜が厚くなったりする病気です。発熱とともに呼吸をするときに胸に痛みがあるような時は要注意です。昔は、肋膜炎と言うと結核のことでしたが、現在はいろいろな病気が含まれています。もちろん、体の抵抗力がない方にはいまだに結核による肋膜炎が起こることがよくあります。この病気も胸のレントゲンで見つかり、貯まっている液を取って診断します。やはりリウマチによる場合はステロイド剤を使いますが、原因を調べて適切な治療をするのが重要です。

心臓(むくみ、息苦しさ)

心臓と聞くと恐ろしく思われるかも知れませんが、実際にはリウマチによる合併症が問題になることは少ないと思います。但しリウマチで亡くなられた人の心臓をみてみると、心外膜(心臓を包んでいる膜)に病気がある人が40%にみられるため、気をつけなければならないと思います。症状は、むくみや夜寝た後に急に息苦しくなったり、前かがみになって座っていると少し楽になったりすることが多いようです。胸のレントゲンや心電図、心臓のエコー(超音波)検査で診断できます。急にひどくなったときは、ステロイド剤だけではなく外科的な治療も必要になる事があります。もっとも、現在問題になっている心臓の合併症は、動脈硬化を原因とする狭心症や心筋梗塞だと思われます。リウマチで通院している方は、動脈硬化を起こす原因となる糖尿病、高脂血症、高血圧などにも注意が必要です。

眼(白眼の赤み、ざらざらした眼の痛み)

リウマチの合併症にシェーグレン症候群という病気がありますが、この合併症は、眼が乾き、口が乾く病です。眼がざらざらしたり、チクチクしたり、痛みがでたり、充血したりします。また、口が乾いて、ご飯がうまく食べられなかったり、いつも口がネトネトしたり、急に虫歯が増えたりといった症状が出ることが多いのです。原因は、涙を出してくれる涙腺や唾を出してくれる唾液腺が壊れてしまうために起こります。眼科で涙の出を調べてたり、唾液の分泌をチェックする事で診断できます。また、白眼に出血したり、赤紫になったりすることがありますが、これもリウマチが眼に入ったために起こっていることがあるので、主治医に申し出てください。眼の合併症を起こす方の中に、リウマチがひどい方(悪性関節リウマチ)がいらっしゃいますので、要注意です。

神経(しびれ、ビリビリした痛み)

手足のシビレ感や筋力の低下は、リウマチが強い(悪性関節リウマチ)ために起こる場合やリウマチによる頚の骨の脱臼(頚の骨がゆるくなって神経を圧迫するために起こる)による場合があります。また手足のシビレや痛みは、神経の線維が圧迫されて起ったり、血液の流れが悪いために発症することもあり、主治医の先生によく相談してください。原因は、様々なので、原因をはっきりさせないと治療法は決まりません。手術でよくなるものから、やっと病気の進行を止めることしかできないものまで、いろいろな病状の方がおられるのをご理解ください。

貧血(顔色の悪さ、体のだるさ)

リウマチのかたは、ほとんどの人が貧血です。それは、長い間腫れが続くために体のなかで赤い血(赤血球)をうまく作れなくなっているためです。また、胃炎や胃潰瘍があり少しずつ血液を失っていたり、偏食のために鉄分やビタミンを充分食べていなかったりするためです。特にリウマチが強い方は、貧血もひどいので主治医の先生に貧血の程度を聞いておきましょう。ヘモグロビンというのが、貧血の目安なります。だいたい10以上あればよいのですが、8以下の人は、『どこかに出血していないか?』『偏食はないか?』『リウマチの治療がうまくいっているか?』など調べてもらいましょう。よく鉄分が足りないと考えて鉄剤(鉄分が含まれている)を飲んでもらうことも多いのですが、リウマチのために鉄分は体に入ってもうまく利用されず、貧血は続くことが多いのも事実です。リウマチのために貧血が続いている場合は、リウマチの治療を組立直さねばならないこともしばしばあります。

腎臓(蛋白尿、血尿)

リウマチで腎臓が悪くなる場合(アミロイドーシスと言い、アミロイドという異常な蛋白質が腎臓、胃、腸、心臓にたまる病気:これは長い間リウマチを患っている人に起こりやすい)やおくすりで起こる場合があります。腎臓の状態をみるためには、血液と尿の検査が欠かせません。皆さんが特に覚えておいて欲しいことは、多かれ少なかれリウマチのコントロールのため使うお薬には、腎臓にさわることがあり、私は、いつも「腎臓は大丈夫かな」と考えて検査をしていることを理解してください。例えば、痛み止めは使い過ぎれば、間質性腎炎といった合併症を起こしますし、リマチルやメタルカプターゼという抗リウマチ薬もたくさん使えば蛋白尿が出ることがあります。要は、異常を早めに見つけることです。今、例に出したくすりも、直ぐ止めれば元にもどります。患者さんと医者が、お互いに薬について(その副作用についても)気軽に話合う事ができなければ、リウマチなどという難病に立ち向かうことはできません。自分の飲む薬は、名前と効果はかならずお医者さんに聞いてください。

胃(胃が痛い、食欲がない、吐き気がする)

胃潰瘍や十二指腸潰瘍は、いろいろなストレスが原因で起こる事が多く、リウマチの患者さんは、痛み止めも服用しているため、このような潰瘍になることが非常に多いのです。症状は、お腹がすいている時に胃の辺りがキリキリ痛んだり、食後に胃が気持が悪かったりします。しかし、リウマチ学会で調べたところ、無症状(なんともない状態)で既に潰瘍ができていた人がたくさん見つかりました。リウマチの方は、検査(胃カメラ、胃透視)がなかなかしづらいこともあり、胃を悪くしないように胃のくすりは予防的に飲んでおくのも大事です。また、便に血液(便潜血)が出ているかどうかをチェックしておきましょう。注意すれば、いまは大変よく効く薬もありますから心配いりません。

骨粗鬆症(骨がもろくなった状態)

もともと関節リウマチの人は、痛みや腫れのある関節の周囲に骨粗鬆症が起こっています。また、腫れが続くと骨がもろくなって来ますし、服用しているプレドニンなどのステロイド剤も骨を弱める働きがあり、ほとんどのリウマチの患者さんは、骨粗鬆症であると言ってもよい状態です。また、動かないでいると骨はどんどん弱ってきます。従って、痛みをとって運動療法などで適度に体を動かしておく必要があります。骨を強くする薬は、最も効果のあるものとしては、ビスホスホネート製剤(ダイドロネル、フォッサマック(ボナロン)、ベネット)があります。この製剤は服用のしかたが大事で、必ず空腹時に飲まねばなりません。しかし、臨床効果は高く骨の密度を増加させて骨折を予防できる事が証明された薬です。また以前より使用しているカルシウム剤やビタミンD製剤(アルファロール、ワンアルファ)あるいは注射薬(カルシトニン製剤)があり、これらは骨密度の低下を防ぐ事を目的に使用します。但し、副作用もつきものですので、やみくもにくすりや健康食品を取らずに主治医に相談してください。

リウマチの検査

よく医師全体に対して「薬漬け、検査漬け医療だ」「医者の儲け主義だ」との批判があります。確かに不必要な検査、不必要な薬物投与がないかどうかを医師自身が反省せねばならない事も多いと思います。また、検査をする際に、患者さんの苦痛や経済的負担も考えるべきだと思います。しかし、私は必要な検査もせずにお薬のみを出すようなまねはできません。リウマチの状態を知らずしてやみくもに治療はできないと思っています。また、いつも行う検査は、レントゲン検査、血液検査、尿検査など一般的で安全なものです。検査データについてもなるべく患者さんによく話すように努力していますが、皆さんもわからない事はどしどしお聞きください。以下に検査について説明します。

リウマトイド因子:リウマチ患者の陽性率は80%で、20%の人は陰性です。従って、リウマチ因子陰性の関節リウマチもあるのです。リウマチ以外の病気(慢性肝炎、慢性感染症、膠原病)でも陽性になる事があり、健康な人でも陽性の人がいます(約5%以下)。抗リウマチ剤などで、効果があると低下してくるので、2〜3ヵ月に1度位は測定します。

血沈(赤沈):リウマチの程度、関節炎の程度を良く反映する検査であり、昔より血沈の亢進した人には、何か全身的な問題があると言われています。但し、貧血や肝機能の異常などで変化するので、総合的に見て行かねばならない検査です。

CRP:血沈と同じ様に関節炎の状態を良く表していますが、血沈より早く(約10時間以内)変化し、また、貧血などに影響されません。但し、上気道炎などの感染症で増加しますので、注意が必要です。

血算(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン値、血小板数):一般的に貧血検査として施行されますが、リウマチのときは白血球数や血小板数が増加することが多く、逆にヘモグロビン値が低下し、貧血(10以下)になる事が多い。また、急激な貧血、白血球の減少などがみられた時には、体の中で異常な反応が起こっていると考えられるため、すぐ受診してください。

尿検査:尿検査は、血液を取られるのに比べれば大変楽であり、毎月施行してほしい検査です。この検査により、いろいろな事が判ります。タンパク尿、血尿のみでなく糖尿もわかり、薬の副作用の早期発見、あるいは、リウマチの合併症(アミロイドーミスなど)も発見される糸口になります。

腎機能(クレアチニン, BUN)・電解質(Na, K, Cl,Ca,P):リウマチの方は腎機能が障害されたり、高カリウム血症に陥ったりしやすいので、必要な検査です。最近は腎障害を合併しているリウマチの方もいらっしゃるので必須といえます。

肝機能(GOT, GPT, ALP):これらの検査にて、例えば肝炎あるいは、薬による肝障害をすぐに見つける事ができます。

免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM):リウマチの人は、慢性の炎症(腫れ)があるので、これらの免疫グロブリンという物質が増加しています。他の膠原病や慢性肝炎などでも増加しますが、治療効果の目安となります。

抗核抗体:リウマチの方でも陽性になる事がありますが、他の膠原病、例えばシェーグレン症候群を合併した場合などは、陽性となります。年に一度位は、必要な検査です。

MMP-3:この検査は血液検査です。関節内の滑膜、軟骨などの組織から分泌される酵素です。従って、関節の中で炎症が起こると高値となります。リウマチの初期の方や関節の破壊の程度をみるのによい検査です。

抗ガラクトース欠損IgG抗体(CARF): この検査も血液検査です。リウマチ因子のもっと感度のよい方法と考えて下さい。リウマチ因子陰性でもCARFが陽性のことがあり、関節リウマチの診断に有用です。

抗CCP抗体:この検査も血液でわかります。特に早期の関節リウマチの患者様で有用です。この抗体が検出されれば、ほぼ関節リウマチと考えてよいと思います。但し、早期のリウマチ患者の40%程度しか陽性にならないため、陰性でもリウマチを否定できません。

レントゲン検査:病気の始まりの頃は診断のために必要ですが、経過を見てゆく時には、骨の変化を見て、どのような状態かを判断します。また、胸部レントゲン写真は、肺の状態(よく間質性肺炎が合併する)を診るのに必要です。

MRI(磁気共鳴画像):最近早期に関節リウマチを診断するため、MRIで早期の骨や軟骨及び軟部組織の変化を検出しようと考えています。より早く関節リウマチを診断できる検査方法と思います。

以上、簡単に述べてきましたが、まず、病気がどういう状態にあるかを診るために、検査はする必要があると思います。いつも薬は少なめに、検査は必要十分に見落としがないようにして行こうと、考えています。

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