パーキンソン病外来について

 パーキンソン病は、現在1,000人あたり1人、20年後の高齢化社会ではその頻度は増し倍の発症率になると言われている難病の一つですが、この病気ほど多くの研究がなされ治療法が発達してきた病気はありません。ここ20-30年の間に目覚しい治療の発達がもたらされてます。最近のパーキンソン病治療の発達を簡単にのべ当科の治療について知って頂ければと思っています。

1.パーキンソン病について解ってきたこと

 家族に発症する遺伝性の「家族性パーキンソン病」は極めて稀で、多くは原因が不明であり50歳以上になって発症する「孤立性パーキンソン病」です。この病気は中脳という脳の部位でドーパミンという神経伝達物質を産生する細胞が死滅していき、脳内のドーパミンが欠乏していき運動や歩行の障害を来します。ドーパミンを産生する細胞の死滅は加齢現象として一般的に現れますが、パーキンソン病ではこのスピードが桁違いに早く10倍ほどのスピードで進行すると言われています。どのようにしてこのような細胞死滅が始まるのか、原因は現在でも解っておらず、元々のそのヒトの持つ個人的体質とそのヒトが生活している環境(地域、仕事、食事など)が偶然に一致して発症するとする「ダブル・ヒット論」が仮説として考えられています。

2.パーキンソン病運動症状について

 ①手足の振るえ(安静時振戦)、②関節の動きが固くなる(筋固縮)、③動きのぎこちなさと反射運動の低下(寡動症/無動症)、④姿勢反射や歩行の障害はパーキンソン病の「四大症状」と言われています。これら四つの症状の程度は病気の進行時期、また個人個人によって異なりますが、振戦の症状が主でその他の症状は軽い「振戦優位型」と、逆に振戦は軽くて動作の鈍さと歩行障害が目立つ「寡動症/無動症型」の二つのタイプに分けられますが、多くは「動症/無動症型」です。この二つは病気の経過もまた治療法も異なりますので、自分がどのタイプか知ることは重要となります。図はパーキンソン病患者の特徴を捉えているとして有名なGowersの絵です。

3.パーキンソン病の進行と経過について

 最新の研究成果では、パーキンソン病はおよそ27年の経過で脳の下の方から徐々に上に向かって病気が進行し大脳にいたるとされ、それにつれ自律神経症状(血圧低下やメマイなど)から運動症状そして認知機能障害(睡眠障害、尿失禁やせん妄など)へと順序よく症状が現れることが知られています。運動症状は、全体の経過の中でほんの一部の時期の症状にしかすぎません。最近は運動症状だけでなくこれら「非運動症状」と言われる自律神経や認知機能の障害を考慮に入れた治療の重要性が望まれています。

4.パーキンソン病の薬物治療について

 およそ46年前にレボドパという薬が開発されました。この薬は脳内で不足したドーパミン物質を補充するもので特効薬としての働きがあります。従って治療の主役となる薬ですが、問題はその作用時間が60~90分と大変に短いことにあります。病気が進行とともに脳内ドーパミン細胞が乏しくなっていくと、薬飲んでも症状改善が得られる時間が短くなっていき(ウエアリング・オフ現象)、さらには薬による副作用として手足がクネクネと動く異常運動(ジスキネジア)を伴ってきます。この時期になると内服量を減らす必要が出てきて、満足な日常生活を送ることが難しくなってきます。レボドパに代わる新たな薬剤として20年ほど前にドーパミン受容体作動薬が現れました。レボドパと比較して作用時間が長くそして副作用が現れにくい優れた点がありますが、残念なことに症状改善効果はレボドパには及びません。この薬は現在でも精力的に開発が行われていますが、レボドパと上手に組み合わせて使うことでレボドパの副作用を防ぎつつ長期にわたり症状改善効果を持続させることが可能となっています。

5.外科的治療法について

 近年のパーキンソン病の研究の発展によってもたらされた成果は、パーキンソン病になると運動に関係する大脳基底核と言われる部分がどのように変化するかが解ったことです。主には大脳基底核の淡蒼球と視床下核という部位が、病気により過剰に活動していることが解り、これらの部位を電気刺激で活動状態を変化させて症状を改善させるという外科治療が発展することになりました。特に視床下核の脳刺激はパーキンソン病の四大症状の改善のみならずレボドパ内服の減量を可能とする手術として全世界で行われています。
 手術後は、脳刺激を調節することと減量された内服を再び徐々に増やすことの二つの方法で症状コントロールを行うことが可能となります。薬剤による症状改善の調節が限界となり日常生活に不自由を来たしている患者に、再び新たな治療のスタートをもたらす革新的な方法となっています。脳刺激治療が世界的に行われるようになってすでに15年以上が経ち、このような脳刺激を受けた患者では病気の進行が遅くなることも知られています。

6.パーキンソン病包括的治療

 パーキンソン病は、「運動症状」のみでなく自律神経症状や認知障害などの「非運動症状」を合わせ伴いながら長い期間をかけて徐々に進行する病気です。
薬剤のみによる「運動症状」の改善では不十分であり、生活療法や運動療法(リハビリ)を合わせて行う重要性が増しています。当科では食事や睡眠指導などの生活療法そして症状に合わせたリハビリ療法を組み合わせ日常生活機能が改善を目指しています。

外来日 毎週水曜日 9:00~12:00