呼吸運動の仕組みと人工呼吸器

 

人工呼吸器を皆さんご存知でしょうか?

ドラマなどで重篤な患者さんの口下へマスクを当てたり、喉まで管を入れて患者さんの代わりに呼吸を行う機械というとなんとなく見覚えがあるのではないかと思います。今回は、その人工呼吸器について呼吸運動の仕組みと合わせて、お話したいと思います。

 

1.呼吸運動の仕組み

私達の体は、体外から酸素を取り込み、体を動かすためのエネルギーを作り出し、細胞活動によって産生された二酸化炭素を体外に排出しています。その回数は、成人で15~17回/分、新生児で40~50回/分とされています。

よく呼吸のことを「肺を膨らませる」と表現するのを目にしますが、我々の肺は自分自身を膨らませることはできません。どうやって膨らませているのかというと、肺が収まっている胸郭を広げることによって肺を膨らませています。

上図の左側ように横隔膜が下に下がることによって、胸郭内の容量が増え、それにより内圧が下がるため体外から空気が肺へ入ってきます(吸気)。この状態から、横隔膜が元の位置に戻ることで内圧も上がるため肺の中の空気が押し出されます(呼気)。これが呼吸運動の仕組みになります。

 

2.呼吸不全

呼吸不全とは、何らかの原因で血液に酸素が取り込めていない状態のことをいいます。具体的にはPaO2(動脈血酸素分圧:動脈の血液に酸素がどのくらい含まれているか示している)が60mmHg以下の状態とされています。この条件と合わせてPaCO2(動脈血二酸化炭素分圧:動脈の血液に二酸化炭素がどのくらい含まれているか示している)の値が正常値か異常値かで以下の呼び方になります。

・PaO2が異常値、かつPaCO2が正常値(35~45mmHg)→1型呼吸不全

・PaO2が異常値、かつPaCO2が異常値(60mmHg以上)→2型呼吸不全

また、PaO2が60mmHg以下の状態が1ヶ月以上続いている状態は慢性呼吸不全と呼ばれています。

 

3.人工呼吸器

人工呼吸器は、2.で述べた呼吸不全の患者さんへ使用されます。人工呼吸器を使用する目的は、ガス交換を改善することと、呼吸仕事量を減らすことにあります。人工呼吸器には大きく分けて、胸郭外陰圧式と気道内陽圧式の2種類があり、現在、主流なのは気道内陽圧式になります。これは、文字通り、人工呼吸器から患者さんの口元に陽圧のガスを送り、この圧力によって肺を膨らませる方法です。しかし、胸郭が広がっていないのに口からガスを押し込むことになるため、肺損傷や横隔膜の筋力低下などのリスクがあります。よって、人工呼吸器を使用する時間は、必要最小限にとどめる必要があります。

 

4.人工呼吸器導入の条件

人工呼吸器の導入条件は以下のようになります。

パラメータ 呼吸器導入基準 正常値
呼吸回数(回/分) 5回以下または35回以上 10~20回
1回換気量(ml/kg) 3以下 8~12
肺活量(ml/kg) 10以下 67~75
最大吸気圧(cmH2O) 20以下 75~100
PaO2(mmHg) 60以下(FiO2:0.6) 75~100(FiO2:0.21)
PaCO2(mmHg) 60以上 35~45

※1.1回換気量と肺活量は患者体重で割った値になります。体重50kgなら1回換気量400~600mlとなります

※2.FiO2:吸入中酸素濃度のことで、患者が吸っているガスに酸素がどれくらい含まれているかを示します。FiO2=0.21は通常の空気、FiO2=0.6は吸入ガスの60%が酸素となります。

 

5.人工呼吸器の換気モード

人工呼吸器は下記の2つの換気モードがあります。

①強制換気モード

換気量や圧力、呼吸回数を人工呼吸器側で規定し、呼吸の全てを人工呼吸器に依存させるモード。患者さんの自発呼吸がない場合に使用します。

②補助換気モード

患者さんの自発呼吸を維持しながら人工呼吸を行う換気モード。自発呼吸がある、または自発呼吸が戻ってきた場合に使用します。

自発呼吸がない重篤な患者さんは強制換気モードから開始し、自発呼吸が徐々に出てきたら支持換気モードに移行していき、人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)を目指します。

 

いかがだったでしょうか。次回は人工呼吸器の各換気モードについて解説します。