呼吸器の換気モード
今回は「呼吸運動と人工呼吸器の仕組み1」の続きとして、人工呼吸器の各換気モードについて説明します。
1.用語解説
説明の前に今回登場する用語について解説させていただきます。
1回換気量(ml) | 1回の呼吸で出入りするガス量 |
呼吸回数(bpm) | 1分間に呼吸する回数 |
気道内圧(cmH2O) | 口から肺に至る気道にかかっている圧力。これが高いと肺損傷が起きる可能性が高い |
吸気(Inspiration) | 人工呼吸器から患者にガスが向かっている状態。患者が息を吸っている形になる |
呼気(Expiration) | 患者から人工呼吸器にガスが向かっている状態。患者が息を吐いている形になる |
自発呼吸 | 患者自身の呼吸のこと |
機能的残気量 | 安静時の呼吸で息を吐き切った時に、肺に残るガス量のこと |
換気血流比 | 肺胞に入る換気量(Va)と肺胞に流れる血流量(Q)の比。Va÷Qが0.8~1.2を正常範囲とされている |
コンプライアンス
または肺コンプライアンス(ml/cmH2O) |
肺の柔らかさを示す値。1cmH2Oの圧力でどれくらいガスが入るかを表現している。この値が小さいほど肺が固く、大きくなると肺が柔らかいと表現される。成人で40~50ml/cmH2Oが正常範囲とされている |
気道抵抗 | 気道にガスを流した時の抵抗。口から肺に至る気道が、何らかの原因で細くなると高くなる |
無気肺 | 肺の1部分がガスを含んでいない状態。ガスが入らず、換気ができていないことを言います |
2.強制換気モード
①VC(volume control:ボリュームコントロール換気)
強制換気の1つです。呼吸1回のガス量(換気量)、1分間の呼吸回数、吸気を流す時間等を設定します。換気量が保障される反面、肺にかかる圧力が上がり過ぎたり、自発呼吸との同調性が悪くなることがあります。
図1.VC動作の呼吸器
②PC(Pressure control:プレッシャーコントロール換気)
強制換気の1つ。吸気時に肺にかかる圧力を一定に保つようにして、人工呼吸器からの吸気が送られます。肺にかかる圧力と吸気時間を設定します。換気量は患者の肺の固さ(コンプライアンス)と気道の太さに左右されます。この換気様式は圧力を一定以上に上げないため、低い気道内圧を保つことができます。主に重症呼吸不全などの肺が固かったり、気道抵抗が高い症例に適応できます。
図2.PC動作の呼吸器
3.補助換気モード
①SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation:同期型間欠的強制換気)
強制換気と自発呼吸を組み合わせた換気様式であり、強制換気の合間に自発(吸気努力)があれば、それを感知し自発呼吸ができます。
強制換気のタイミングを自発呼吸に同期させますが、万一に患者の自発呼吸がなくなり、感知しなくなったとしても、SIMVで設定した換気量を強制的に換気します。
自発はあっても、患者の自発呼吸だけでは十分な換気量が得られない、また自発がなくなってしまう可能性のある場合によく用いられます。
図3.SIMV動作の呼吸器
②CPAP(continuous positive airway pressure:持続的気道内容陽圧)
一定の圧力を吸気・呼気の全てにわたって維持するもので、呼吸仕事はすべて患者自身によってなされます。常に一定の圧力がかかっているので、肺容量が多くなり、肺の機能的残気量が増えます。これにより、萎みかけている肺胞が膨らみやすくなり、換気血流比の改善、無気肺の予防、横隔膜の効率改善が見込まれます。主に人工呼吸器からの離脱時によく用いられます。
③PS(pressure support :プレッシャーサポート換気)
患者の自発呼吸に合わせて、吸気の間一定の圧力をかけて行う換気様式です。患者の自発呼吸を生かし、吸気仕事の一部を補助する補助換気の1つです。同調性に優れるのが最大の利点であり、また気道内圧が設定した圧力以上に上昇しない為、肺に過剰な圧をかけないなど、呼吸負荷の軽減を調節しやすいです。
図4.PS/CPAP動作の呼吸器
以上になります。難しい話になってしまいましたが、これで人工呼吸器について興味を持っていただけたら幸いです。