帯状疱疹とは?

 麻酔科医長 松井弦一郎

帯状疱疹 ( たいじょうほうしん ) は,成人になって( 時に、抵抗力の弱い小児にも起こりますが ) 何らかの原因で体の免疫力が低下した際に,神経節に潜んでいた水痘 ・ 帯状疱疹 ( HZ ) ウイルスが再び活性化し,末梢神経の走行に沿って痛みと発疹 ( 紅斑や水疱など ) を引き起こす疾患です。その誘因として過労やストレス,手術や放射線照射,基礎疾患に対する免疫抑制治療中の患者さんや悪性腫瘍の合併を含めた宿主の免疫機能の低下などが挙げられます。

帯状疱疹とは

 

 

 

 

 

小児期 ( 3 歳 ~ 6 歳 ) に HZ ウイルスに感染すると,水痘 ( 水ぼうそう ) をひき起こします。水痘は発熱や咽頭痛を伴い発疹を主な症状とし,一週間程度で治ります。しかし,水痘が治癒したあとも HZ ウイルスは皮疹 ( 皮膚にできた発疹 ) の知覚神経を介して神経の根元 ( 脊髄神経節や脳神経節など ) に密かに潜伏しているのです。つまり,過去に水痘に感染したことがあるすべてのヒトに帯状疱疹の発生リスクがあるといえます。他のヒトから感染して帯状疱疹になるわけではありません。

 

帯状疱疹とは2

帯状疱疹の症状

帯状疱疹の症状は,痛みと皮疹です。
痛みは HZ ウイルスによっておかされた神経の走行に沿って認められ,耐えがたい痛み,ピリピリする様な痛み,焼ける様な痛み,針で刺される様な痛み,締めつけられる様な痛み,などと表現されます。多くは早期に診断され,内服薬や点滴などで適切に治療されれば,痛みは一週間程度で軽快し,二~ 三週間程度で皮疹も消失します。しかし,中には帯状疱疹後神経痛 ( PHN ) といって,皮疹が消失したあとも数ヶ月から数年間以上にわたって痛みが続くことがあります。この神経痛は,HZ ウイルスによって神経が大きなダメージを受け変性した結果生じると考えられています。PHN へ移行する症例は免疫機能の衰えた高齢者ほど多くなる傾向がみられ,その約 40 % が 60 歳以上の患者さんです。そのほか,重症皮疹症例や急性期の疼痛が強い症例,皮疹部の感覚の低下が著明な症例では PHN に移行しやすいといわれます。一度この PHN に移行してしまうと,完全にもとどおりの状態に戻すことは不可能な場合が多く,多少なりとも痛みを残すことになります。したがって,帯状疱疹の治療でもっとも重要なのは,PHNを発症させないことといえます。

帯状疱疹症状

治療は,急性期には抗ウイルス薬を投与し,痛みに対して非ステロイド系抗炎症薬を処方します。症例によってはステロイド薬の併用や各種神経ブロック療法を早期より行います。神経ブロック療法は治癒までの期間を短縮させ,PHN の発症を減少させる効果があります。

帯状疱疹の治療

治療は,急性期には抗ウイルス薬を投与し,痛みに対して非ステロイド系抗炎症薬を処方します。症例によってはステロイド薬の併用や各種神経ブロック療法を早期より行います。神経ブロック療法は治癒までの期間を短縮させ,PHN の発症を減少させる効果があります。

帯状疱疹治療

 

PHN に移行して耐えがたい痛みが続く場合,痛みの悪循環が生じます。痛みによる不眠や意欲低下,食欲減衰なども生じます。この痛みの悪循環にはウイルスによって直接障害されている神経以外の,脳・ 脊髄を含めた中枢神経系が大きく関与しているといわれ,もとの痛みが大きく増強しています。このような状態では従来の消炎鎮痛薬は効果がないことが多く,抗うつ剤や抗てんかん剤,抗不安薬を用いることで痛みが緩和されることがあります。罹患期間にもよりますが,神経ブロックが奏効する場合もあります。
いずれの方法を用いてもPHN が難治性という場合も少なくありません。
成人のほとんどが帯状疱疹の潜在的リスクを持っているのですから,PHN が “ タチの悪い病気 ” であることを多くの方々に認識していただく必要があります。帯状疱疹を発症した際には,PHNの可能性を常に念頭においていただき,いち早く抗ウイルス薬の内服 ・ 点滴などの適切な初期治療を受けてください。もし,一週間程度経過しても痛みが継続する場合,あるいは痛みの増強がみられる場合は,速やかにペインクリニック等の痛み専門外来を受診することをおすすめします。